From the Editor 北米アイダホから届いた傍流サーフシーンの今

2018年夏、東京・品川の大井町に「citywave® Tokyo」がOPENした。この人工波の施設は、ケリー・スレーターの「Surf Ranch」や、ヨーロッパやオーストラリアに続けざまに登場している「WAVE GARDEN」のような、プールに海の波を再現するタイプのウェイブ・プールとは異なり、リバーサーフィンをベースに誕生したプールだった。ドイツはミュンヘンのアイスバッハ(バッハはドイツ語で川)がルーツと言われるリバーサーフィン。川に流れ込む大量の水が、川底に置かれたブロックの斜面を勢いよく駆け上がり、その斜面を波に見立ててサーフする、そもそもは海のない都会で考えだされた川遊びだった。そんな遊びをルーツとするこの傍流サーフィンも、今やひとつのスポーツとして世界的に認知されつつあり、すでにワールド・プロツアーまで組織されているほど。これは、ヨーロッパを中心に増殖する「citywave®」を転戦するツアーで、昨年、その第4戦が、大井町でも開催された。大会には、ヨーロッパを中心に世界のトップ・リバーサーファーたちが参戦。それをむかえ撃つカタチで、日本のプロサーファーや、すでにこの施設をベースに活動する”大井町ローカル”たちも登場し、白熱した戦いが繰り広げられた。ボトムターンとカットバックをくり返しながら、ターンでは、大きくスプレーを飛ばして激しく組み立てるライディングには、エアリバースやアーリーウープなどのエア系の技が、当たりまえのように決め技としてもち込まれ、キックフリップなどのスケート系の技も、随所でくり出されたりと、まさにサーフィン×スケートボードといった趣の、水上の新しいボードスポーツ誕生といった印象だった。

今回掲載されている「アイダホのサーフゴッド」では、2012年、アメリカ北西部アイダホ州ボイジーという大都市に登場したリバー・サーフィン場「Whitewater Park」をとりあげている。ここでは、ヨーロッパで隆盛をほこる「citywave®」とはまた異なるカタチで、あらたにアメリカ本土内陸で育まれつつあるリバーサーフィンの今が、卓越した筆致で紹介されている。ここでゴッドと呼ばれ、その波のすべてをコントロールするポール・プライマスという男の生き様や、この施設の影響で賑やかに変ぼうしてきた周辺の街の姿、さらにここに棲息するローカル・リバーサーファーたちの生活と意見などを、筆者のノア・レダーマンが丁寧にレポートしてくれている。面白いのは、ここを取材する間に何度もこの傍流サーフィンにトライする筆者なのだが、何度も失敗をくり返し、屈辱を舐め続ける姿。それほどにリバーサーフィンは、海でのサーフィンとは勝手が違うものなのかも知れない。かつてハワイとオーストラリアが隆盛を誇ったプロサーフ・シーンに、静かに眠っていたカリフォルニア勢が逆襲ののろしを上げたように、近い将来アイダホから、ワールド・プロツアーに挑戦するリバーサーファーが登場することも、充分に可能性のあることだと思う。

‘70年代から、女性サーフ・フォトグラファーたちの姿はさほど珍しい存在ではなかった。本誌7.5号にも登場したハワイのシャーリー・ロジャースのように、魅惑的なアイコンとして、若い僕らの瞼のうら側にしっかり焼きついた、憧れのミューズも確かにいたし、日本にも鴨治淳子に代表される、世界を股にかけて活躍したフォトグラファーも少なからず存在する。以前、数えるほどしかいなかったウォーター・フォトグラファーの数も、近年はおどろくほど増え、個性的な作品を残しはじめている。今回のポートフォリオには、そんなウォーターショットを得意とする女性フォトグラファー、サラ・リーが登場している。

僕が彼女の存在をはじめて知ったのは、本誌8.2号の表紙を飾った、思いきり両腕を前方に伸ばし、クラシックなパラレルスタンスでクイーンズを駆け抜けるアーサー・アンチングスを捉えた、印象的なウォーター・ショットだった。まさに「スタイル・イズ・エブリシング」と叫びたくなる一枚。クレジットはPhoto by Sarah Lee。それを見て、「こんな女性フォトグラファーがいるんだ…」 と思った記憶が残っていた。そして今回は特集だ。彼女の仕事ぶりを紹介する短編ムービー「キャプチャリング・ワット・ユー・キャント・コントロール」をYoutubeで観ると、ブレイクする波の裏側で見せる、水中での柔軟で自由な動きがまず印象的だ。これは本文にもあるように、かなり卓越したスイマーであったことを裏づける映像として興味深い。彼女の作品の魅力は、被写体が男性であれ女性であれ、アクションの瞬間にかいま見えるソフィスケイトされた肉体の表情を、さりげなく押さえてそこに個性を感じさせる点か。前述のアンチングスもそうだったが、例えば今回のクロスステップするM・フェブラリーを捉えた一枚にもそれを感じる。なぜこれなの?と最初は思ってしまうのだが、実は力の抜けたその姿こそがまさにフェブラリーそのもの。人柄さえ滲んできて、まわりの空気まで和んでしまいそうな一枚だ。

この他にも、オールド・カリフォルニア・シーンに目がない読者には、’60年代後期から’70年代にかけて、米『サーファー』誌のスタッフ・フォトグラファーとして、時代をフィルムに焼きつけてきたブレット・バレットの回想録。そして、アルゼンチンのサーファー兄弟が、かつて自国がイギリスとの領有権を争って紛争となったフォークランドに、平和のためのサーフトリップを試みる「風を追いかけて」。さらに白眉は、あの2012年6月8日の巨大なクラウドブレイクで、致命的なワイプアウトから生還したビッグウェイバーのデレク・ダンフィーが、脳しんとうの後遺症にさいなまれながら、フォトグラファーとして蘇生していく軌跡を追いかけたウィットマン・ベドウェルの力作「大波を射止める目」と、そのダンフィーが、現在のビッグウェイブ・シーンのど真ん中を、水中から果敢に捉えたポートフォリオなどなど、今号もさらにGoing Deeper!なTSJJ、是非お楽しみください。
井澤聡朗