本日発売!最新号6.1号よりFROM THE EDITORをご紹介

今号は記念すべき号となった。というのは、本誌発行人、スティーブ・ペズマンがこのザ・サーファーズ・ジャーナル(以後TSJ)をスタートさせて25年、25周年を迎えた。一言で25年といっても、4半世紀、25年をやり抜くことは大変なことなのだろう。また、TSJ日本版もまた6年目を迎え、私たちスタッフ一同、気持ちも新たにしているところだ。これからもご愛読のほう、よろしくお願いします。

さて、TSJ日本版通巻31号目のオリジナルコンテンツは出川三千男だ。出川三千男は、ご存知のように、日本サーフィン創成期からサーファー/シェーパーとして活躍し、いまだに現役バリバリの男だ。彼は、アーティストを志したというだけあって、彼の足跡はさまざまな作品を残している。まず、サーフボードのレーベル、パイオニア・モスはニューヨークの広告代理店の名前からつけたらしいが、‘70年代、小林正明、善家誠、青田琢二ら、数多くの全日本チャンピオンを輩出した名門となった。つづいてはじめたノーブランドは現在進行形の彼のサーフボードのレーベル、そしてブルーホライゾンはサーフボードからファッションまで取りそろえる、いわゆるセレクトショップのはしりとして、現いま在も七里ヶ浜のランドマークとなっている。ほかにも、波情報を提供するiinami.tvやサーフィンビデオなどがある。

私もまた出川三千男とはさまざまな形でいっしょに仕事をさせてもらっている。35年以上前、私が『サーフィンライフ』誌の編集をしていたとき、彼から電話があり、モスのお客さんが、カウアイ島でシャークアタックに遭ったので、記事にしたらという連絡があった。さっそく彼はサメに噛かじられた歯形のついたサーフボードとともにシャークアタックに遭った本人を連れて編集部にあらわれた。すでに出川三千男は東京大学の海洋研究室にその板を持ち込んで、アタックしたサメの種類を特定していた。「歯形からすると、ホオジロザメみたいよ」と出川三千男は淡々と言う。そして、それは記事になった。そして1980年代初め、波に乗るハワイスタイルのウインドサーフィンが日本に紹介されたとき、私と出川三千男は『2Wマガジン』というウインドサーフィンの専門誌を出版した。Wind & Waveの頭文字をとった「2W」という雑誌のタイトルは出川三千男が考えた。彼にはネーミングを付ける才能があるのだろう。

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また、前号でも書いたが、彼は日本のサーフィンの原風景、その歴史の端緒を確かめようと、黎明期にサーフィンをはじめていた人たちのインタビューをしたが、私もまた出川三千男に同行させてもらい、証言録を編纂している。彼は、友人でもあるスティーブ・ペズマン時代の『サーファー』誌をすべて持っている(もちろん読んでいる)だけあって、サーフィンの歴史に精通し、こうして証言録を集め、日本のサーフィンのアーカイブをつづけている。しかし出川三千男は、だからといって、古いものに興味があるわけではないという。ただ、その時代のモノに興味があるのだと。彼は最後にこう言う「おれはサーフィンを考えていたり、勉強したりしているのが好きなんだろうね。みんな、勉強したらいいよ。文献を読みなよ。サーフィンは学問だよ。カルチャーだとか、わけのわからない絵を描かれても、おれにはピンとこない」と。

私の愛読書のひとつに出川三千男が書いた『波乗り入門』(筑摩書房)という本がある。波乗り入門といっても、ハウツー本ではない。出川三千男が波乗りをして50年間で感じたことを書いている、いわゆる波乗りの哲学書なのだ。出川語録といったところだろう。後書きで、出川三千男は、この仕事の依頼を受けたときに自分にはできないと書いているが、サーフィンにたいするこの真しんし摯な姿勢こそが出川三千男であり、敷居を高くしているゆえんなのだろう。この本の中で彼はおもしろい視点を提供している。男性と女性のサーフィンにたいする考え方が決定的に違うのは、エクスタシーの違いだと。サーフィンの究極はエクスタシーだが、女性のエクスタシーはオルガスムスで、男性のそれは征服欲なのだと。だから、男はがむしゃらにビッグウエーブなどに挑戦するが、女は理屈でサーフィンを理解し、大波には興味をもっていないと。出川三千男、さすがです。

最後に、おもしろい出川語録を紹介しよう。あるとき、彼はこんなことを言う「還暦になってからサーフィンをはじめる?そんなのダサいだろうよ」と。「何でよ?」って私が訊くと、「若いときにやれなくて、時間もお金もゆとりができたからって、はじめるものじゃないだろう、サーフィンは。やるんだったら外洋ヨットだろう」という答えが帰ってきた。それは、50年間、サーフィンがしたいがためにサバイブしてきた男の本音だろう。サーフィンは、もともと敷居の高いスポーツなのだ。
森下茂男